地中熱利用技術専門部会は、平成15年6月18日14:30~17:00、東京/銀座ACTプラザにて「地中熱利用促進に向けての技術の現状と課題」をテーマとした講演会を開催した。講演は地表設備および地下技術の専門家を招いて行われ、講演タイトルおよび講演者はそれぞれ、「地中熱利用のための地表システム技術の現状と課題」ゼネラルヒートポンプ(株)柴 芳郎氏、「帯水層熱エネルギー貯留の海外最新情報と福井県三里浜での実証試験について」信州大学 工学部教授 藤縄 克之氏である。講演者を含めて43名の参加があり(うち日本地熱学会会員19名)、質疑応答も活発に行われ、盛況のうちに終了した。以下にその内容を紹介する。
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「地中熱利用のための地表システム技術の現状と課題」
ゼネラルヒートポンプ工業㈱ 柴 芳郎 氏
-講演要旨-
エネルギーの有効利用の一環として地中熱を利用することにより電気式のヒートポンプにより暖房・冷房・給湯等ができないかどうかが近年検討・試験導入されている。
電気式のエアコンや給湯機は「外気」が用いられるが、地中熱を利用する場合は「外気」を「地中熱」に変えることによって実現される。
「地中熱」が「外気」に対して有効なのは、夏は「地中熱」の方が「外気」よりも温度が低いために冷房として有利であり、冬は「地中熱」の方が「外気」よりも温度が高いために暖房で有利であるためである。
ここでは事例を中心に地中熱システムの現状を述べるとともに、地中熱ヒートポンプ製造メーカーとして抱いている地表システム技術の課題を可能な限り紹介する。
-講演の結論および質疑応答より抜粋-
「地中熱ヒートポンプは(空気熱源タイプに比較して経済的に)本当に有効か?
(1) 寒冷地では、除霜が不要なので有効。
(2)それ以外では、
小型(家庭用):空冷式の普及・開発がかなり進歩しているため、困難。
中型(1000~5000平方m程度の建物、20~100馬力程度):廃熱回収(冷房時に温水を作る)や基礎杭利用などにより有効。特に10~15馬力のヒートポンプをモジュール化したものを適宜運転させると高効率。
大型:地中熱交換井の数が過多になるため、困難。大型には大型特有のシステムが効率的であり、中型を複数入れて大型にするというわけにはいかない。」
「高効率化のための技術課題としては、・冷媒の選定(自然冷媒の使用による地球温暖化対策)、・熱交換面積の増大、・冷媒配管圧力損失の削減、・小型エアコン技術の転用(DC圧縮機、DCインバータ等)が挙げられる。」
「地中熱交換井のメンテナンスの問題も取り組む必要がある」
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「帯水層熱エネルギー貯留の海外最新情報と福井県三里浜での実証試験について」
信州大学工学部社会開発工学科 藤縄 克之 教授
-講演要旨-
気候変動枠組み条約のもとに1997年12月に京都で開催された第3回締約国会議で温暖化防止のための京都議定書が採択され、二酸化炭素の排出量削減はいよいよ待ったなしの課題となっている。帯水層熱エネルギー貯留技術(ATES)は、化石エネルギーに代わるクリーンエネルギー活用技術の1種で、地下浅層部の良好な断熱特性を生かして太陽熱や廃熱などを地下に貯留し、必要な時期に利用しようという技術で、その起源は1970年代の石油危機にさかのぼる。本講演ではATESに関する最新の海外情報を紹介するとともに、農水省が福井県の三里浜で行った実証試験とそのシミュレーション結果についてお話ししたい。
-講演の結論および質疑応答より抜粋-
「今後の課題として、(1)ATESの技術改善(・坑井近傍の熱対流の抑制、・熱的環境影響の把握)、(2)多目的利用のための研究、(・都市の地下水の熱収支機構の解明、熱エネルギー賦存量の把握)、(3)産学官の連携(・異学会間の交流、・啓蒙活動)などが挙げられる。」
「ATES(Aquifer Thermal Energy Storage)ではスケールの問題も出てくると思われ、地化学的研究も必要になってくるであろう。」
「BTES(Borehole Thermal Energy Storage)で、有効熱伝導率を上げる目的で対象範囲の両側に井戸を掘って揚水-注水を行い、強制的に流動を起こして熱交換率を挙げる、或いは逆に両側で水頭を調整して流動を止めて熱貯留を行う(ATESとBTES両者の特徴を取り入れたハイブリッド法)など、新技術で人工的に流速を管理するような発想の転換も必要であろう」