平成14年4月12日 於:鉄鋼会館

地中熱利用促進懇談会・日本地熱

学会地中熱利用技術専門部会 共催

パネルディスカッション『地中熱利用の普及促進に向けて』資料

-パネリストからの問題提起-

1.各技術分野から

 
地中熱利用の普及促進に向けてのシステム開発要素として

東北大学 新堀 雄一

次の事項についての整備が広義の研究開発要素として必要になると考えます。


地中熱利用の促進に必要とされる地下予測技術

産業技術総合研究所 大谷 具幸

 日本において地中熱利用の導入が進んでいない理由として、高価な掘削費とともに地中熱利用に必要な地質情報の研究が進んでいないことが挙げられる。日本では地殻変動が激しいために軟弱な地盤が多く、岩盤からなる大陸の地盤と比べて、一般に熱伝導率が低い。一方、地盤が軟弱であるために、日本では地下水が豊富である。地中の熱エネルギー分布は地下水流動の影響を受け偏在性を有するが、日本では特に偏在性が大きく、熱採取に必要な掘削深度など経済性を左右する問題となる。よって地中熱を経済的・効率的に利用するためには地下における偏在的な熱エネルギー分布の把握が不可欠である。また実際の地中熱の利用に際しては、人工的な熱採取による周辺への環境影響が懸念され、その対策も必要である。上記の問題を解決するために、三次元地下温度構造・水理構造の解析手法を構築し、地中熱利用施設の最適配置を求める手法を開発することが必要である。同時に、数値モデル構築・シミュレーションにより適正使用熱量等の指標数値を算出する手法も不可欠である。


環境に係わる課題

株式会社 地熱 浜田 真之

 環境問題はフロンガスのように思いも寄らないやり方で地球上の生物へ影響を及ぼす可能性があるので、地中熱利用の促進に際して,予め想定しうる範囲で研究課題を設け,技術の発展の過程で生じた問題点への対策を講じ,環境に与えるインパクトを最小限に抑える工夫が必要である。
 地中熱利用においては地下から流体を取り出すことはないので,地盤沈下の危険はない。しかし地下の熱的平衡状態をこれまでとは違ったものにするので,研究課題として地下の地温分布の変化が考えられる。これは地中熱利用の井戸の相互干渉という問題にも繋がる。また地温の変化に伴い、地下水への影響も考えられる。更に地温の変化により、地中細菌に及ぼす影響も研究課題となりうる。地中熱ヒートポンプシステムでは熱の媒体として不凍液等を用いるので、これが漏出しない一層の工夫も課題としたい。地温の上昇が都市気候に及ぼす影響も想定しうるが、現在の空気冷暖房システムによる熱的影響より遙かに小さいと考えられる。
 以上のことから、環境に係わる課題としては、1.地温の変化、2.水文状況への影響、3.地中細菌の活動の変化、を掲げる。しかしながら、如何なる影響があるかは予測しがたいので、広く問題提起を望むものである。


地中熱利用の普及促進への提言(掘削)

地熱エンジニアリング株式会社 佐久間 澄夫

 地中熱利用システムの普及を阻害する要因として、まず最初に槍玉に挙げられるのが「抽熱井掘削コスト」である。次世代に美しい地球環境を残すためには、掘削コスト低減をなんとしてでも実現し、地中熱利用の普及に貢献することが掘削技術者としての重大なる責務であると考える。
 国内における高掘削コストの理由として、明白なものからグレーゾーンまで種々提示されており、それぞれの問題点や解決策を個別に議論・検討すべきではある。具体例を挙げれば掘進率・作業効率向上等であろう。しかし、あらゆる地質条件、地上環境、種々の仕様をすべて満足しうる高性能・汎用掘削機の実現は極めて困難であると想定される。逆に、条件を絞り込み、課題を少なくするほど、安価で短期間に製品化が可能であろう。
 同様に、掘削だけではなく、地中熱利用システム全体としても各課題のプライオリティを明確にし、集中して解決に当たらなければ、限られた人・資源の中では成果が得にくいと考える。
 地中熱利用全体のビジョン及び普及のステップを考え、各ステップ毎にビジネスモデルを構築する必要性を強く感じる。つまり、マーケティングによるマーチャンダイジングの絞り込みと、その実現に向けて関係者のベクトルを一pさせることが最重要で、これこそが普及への最短コースではないだろうか?(浅学非才の放言、失礼します)


2.インストール実績から

 
地中熱利用促進への課題と展望

株式会社 日伸テクノ 柴田 和夫

 地中熱利用の普及促進にはイニシャルコストの低減はもちろんですが、まず地中熱を温泉熱や地熱発電などで言われる地熱とは区別して理解してもらう必要があります。さらにどのようにして地中の見えない部分を表面化し、一般の人々に紹介、実感してもらい、地球温暖化へ向けた意識付けをさせることができるかが、普及へ向けた第一の課題です。一方、太陽光や風力を利用するシステムは、その利用している様子が目で見て実感でき、設置するだけで宣伝効果も大きく理解し易いといえます。このような点からも他の自然エネルギーとの複合や地域のニーズに適した利用方法の提案が重要であると考えます。
 また、建築物に対しての利用では地中熱利用による設備的手法のみではなく、建築的手法による負荷側の省エネ努力も今後イニシャルコスト低減という意味でも重要です。特に家庭用エネルギーは、より快適な暮らしが求められ増加が見込まれます。さらに積雪寒冷地においては雪処理に関する関心が大きく、地中熱を利用した雪対策への普及が期待されます。


中部電力株式会社 深谷 玄三郎

 限られたエネルギーの有効利用と環境負荷の低減は、我々に課せられた重要な課題である。ヒートポンプシステム、蓄熱システムはそれに応えるシステムである。しかし、空気熱源ヒートポンプの成績係数は外気温度の変化によって大きく変動し、特に寒冷地では成績係数が低くなる。地中熱利用ヒートポンプは地下の恒温的な地中熱を利用できるため、安定した成績係数が得られると共に空気熱源方式のような屋外機からの騒音が無く静かな環境を得ることができる。我々は寒冷地である長野県の大町市でこのシステムを採用し、システムの信頼性と良好な成績係数を得ている。採用した場所は地下水が豊富であったため、今までにない採熱量が得られている。今後同様な場所でシステムを採用し再確認する必要があるが、地下水がある場合の適切な採熱量の把握方法を研究する方針を持っている。


ミサワ環境技術株式会社 森山 和馬

 弊社では1991年、約10年前より地中熱を利用したエネルギーシステムを導入し、これまでに東北から中国地方の雪寒地域に融雪施設(通称:BHES)で20箇所程度、西日本を中心として建物施設(温水プール・温泉施設、福祉施設、住宅など)に10箇所程度設置してきた。現在では地中熱のみならず、湖・ため池などのローカルなエネルギーも取り入れた設備導入も進めている。
 地中熱利用は、日本では複雑な地盤構造に起因し、掘削コストが割高になるなどデメリットがある反面、全般に地中温度が高く地下水が豊富であり地盤の採熱性が優れるなどメリットも存在する。これを最大限活用し、日本の気候・風土に適応したシステム構築が必要と思われる。もちろんシステムコストの低減は命題であるが、例えば住宅であれば、健康で快適な居住空間の提供や耐久性・メンテナンス軽減など、今後は付加価値の高いシステム指向も望まれる。



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