日本地熱学会では、2002年より「タウンフォーラム地熱」という企画をスタートさせました。この企画は、市民のみなさんに地熱資源・エネルギーについてより詳しく知っていただこうと、地熱学会会員による講演会や展示を行うものです。2002年は、東京お台場にある産業技術総合研究所臨海副都心センターにて5名の専門家による講演会を行いました。
「地熱資源」とはどんなものか、そのもとになる火山の科学から、発電等の利用面まで、基礎的なことをお話しします。地熱資源は環境に優しいクリーンな国産エネルギーです。
まず、地熱資源のでき方、そして地熱資源(温度によって、高温、中低温、地中熱資源に分けられます)にはどんなものがあるかをお話しします。 高温資源は火山と密接な関係がありますが、また、火山がなくても地熱資源はつくられます。高温資源は地熱発電に、 中・低温資源は温度に応じて色々の目的(ビニールハウスでの野菜の栽培、食品加工や養魚など)に、そして地中執資源は室内冷暖房に使われます。
次に、地熱資源を生む、その背景についてお話しします。地球内部の温度分布は?プレートテクトニクスと火山の関係は? 火山の下の熱構造は? 等について日本列島を例に話します。 最近、日本の岩手県葛根田(かっこんだ)地熱地域というところで、溶けているマグマのすぐ近くまでボーリング掘削が行われ、地下3729mの深さで500℃もの高温が観測されました。 これは地下深部で観測された温度の世界記録です。その結果、地熱資源がどのように形成されるのかがよくわかりました。
再び地熱資源の利用に戻り、日本あるいは世界では地熱資源がどのように利用されているのか具体的に触れます。1904年に世界で初めてイタリアで始められた地熱発電は、 現在世界全体で800万kWを越えるほどになっています。日本では1966年から地熱発電が始められ、現在、合計で50万kWを越えるまでになるなど着々と進展しています。 地熱資源は発電だけでなく、いろいろの目的に利用されています。最近では、火山のない普通の地域のごく浅い深度 (数100m深以浅)にある地下の熱−地中熱と言います−の利用が注目されています。
最後に、将来の地熱エネルギーの利用法を紹介します。近未来型地熱エネルギーとして、高温岩体エネルギー、未来型エネルギーとして、 火山エネルギー・マグマエネルギーを紹介します。現在までの研究の到達点を示します。
地熱資源は高温から低温までいろいろなタイプがあります。そして、私たちの地球にはまだまだ沢山の地熱資源が眠っています。 次のお話では、このような地熱資源をどのように探しだすのかが紹介されます。
地熱資源の探査は、石油や鉱物資源と同様に色々な科学的手法によって地下の情報を抽出し、それらを複合的に組み合わせて行います。 地熱資源で探査の対象となるのは「水」、「断層などの地下の割れ目群」、「熱」であり,これらは『地熱の3要素』と呼ばれています。 調査の方法には、地質的な調査、物理的な調査、化学的な調査がありますが、講演(2)の前段では、主に物理的な調査(物理探査)について、調査例を挙げて説明を行います。
地球を人間の体として、地熱資源の探査方法を病院の検査とした場合、地質調査は皮膚の色や腫れ物などから病気を診断する方法として例えられるでしょう。 とすると、物理探査は、心音検査、脈拍測定、レントゲン撮影、MRIでの人体断層撮影(CT)による診断に例えられると考えられます。 病院の検査に色々な方法があるように、地熱探査に利用される物理探査方法も数多くの種類があり、各々が調査の目的、精度、予算に応じて選択されます。
地熱資源を探す物理探査方法の代表的なものとしては、電気・電磁気探査、重力(磁気)探査、微小地震探査、地下温度(放熱量)探査などが挙げられます。 このうち、電気・電磁気探査は、地下の岩石の電気抵抗(比抵抗:電気の流れ易さを表す数値)を測定し、その分布からCTスキャンのような地下断面を作成し、 地下を構成する岩石の種類や、地熱の3要素に関する情報を取り出します。同様に、他の探査手法も次表に示す内容に基づいて地熱資源の探査を行います。
「地球化学」とは、地球の物質を正確に化学分析・同位体分析し、そこに含まれる成分の割合から、その物質の起源や得てきた条件を推定する学問です。 今回は、地熱開発や探査に利用されてきた地化学の手法を紹介します。このうち、Na、K、Ca、Mgなどの化学成分を用いた地化学温度計(地熱水に含まれる成分を分析して、 その割合から地下での温度を推定する方法)や、水の安定同位体(水素同位体(D/H)や酸素同位体(18O/16O))による水の起源の説明を行います。 特に、地熱探査に有効なHe同位体組成や、地熱流体の化学組成を推定するための、岩石一水反応実験の紹介をします。
地熱、すなわち「大地が有する熱」を、熱として活用するシステムが、地中熱利用システムであります。我が国では、環境意識の高い方々のご理解により、 地中熱利用は適用例が徐々に増えつつある段階ですが、欧米では、既に、約100万台のシステムが稼働しております。 特に先行している米国では、昨年度の事業規模の延びは、対前年比35%増で今年度の市場規模は、全米推定値で、400億円弱、2005年は、1000億円の市場創設を目指しているようであります。
もう少し細かく見ますと、市場の30%が一般住宅、45%が商業施設、残りの25%が政府関係の施設だそうです。 その中でも近年急速に伸びているのが学校施設への適用とのことです。地中熱利用システムを日本国内に適用する場合に、 我が国なりの問題点を丁寧に解決しなければなりませんが、欧米の普及の実態を見ますと、近い将来、数百億円規模の市場創出も、決して夢ではないと確信しております。
地中熱利用促進懇談会は、2001年4月に発足し、現在2年度目の活動となっています。徐々に会員数が増加し、 現在78杜(2002年9月)の会員が地中熱利用システムの普及を目指して切瑳琢磨しながらの活動を行っております。 懇談会のホームページも昨年度から開設しておりますが、1千件/月程度のアクセスをしていただき、これまでに、1万6千件を越えるヒット数を数えております。
地中熱利用システムは、地表と地中の温度差を利用し、冬は、地中の熱を吸い上げ暖房に、夏は熱を地中に逃がすことで冷房に供します。 また、春夏秋冬を間わず台所や浴室への給湯に使用可能です。更に、冬場の融雪にも適用が始まっています。本システムは、 安定した熱源である地中熱を利用することから、効率が良くなり、省エネ効果・二酸化炭素ガス排出抑制効果があるほか、 空気中に廃熱を捨てないことからヒートアイランド現象の緩和策としても期待されています。
地中熱利用システムは、環境に優しい技術(環境技術)であるほか、本システムの普及により、 他の再生可能エネルギーと組み合わせて使うことで地域分散エネルギーの一つとして役割をはたしたり、熱のカスケード利用(温度別多段階利用)により、 ゼロエミッション・総合自然エネルギーシステムの一つとして役割を果たしたり、地域における設備産業、メンテナンス産業の創出など多くの「夢」が実現されることになります。
「目標は高くとも、志を持ち、諦めずに立ち向かう」ことで「夢」を実現できると信じます。そのために、認知度の向上、コストダウン、 研究開発はもちろん大切ですが、本システムの持つ可能性の理解者(親派の方)によるロコミも貴重なバックアップであると期待しております。
この地中熱利用システムが、本当によいものであるとの実感が湧いてくるのには、まだ2〜3年かかるとは思いますが、 本講演では、地中熱利用を巡る最近の動向、将来像などをまとめて紹介いたします。
最初に、地球温暖化が進行した場合の様々な脅威について御紹介する中で、すでにその徴候がみられることを示し、皆さんを不安におとしいれることから、話をスタートさせたいと思います。
人類が排出している二酸化炭素などの温室効果ガスが、地球温暖化の原因とされています。しかし、もっと永い地質時代のスケールで考えると、 現在は氷河期と氷河期の間の、間氷期に当たっています。だから、いずれ氷河期が来て、地球温暖化はさほど深刻な問題ではないという意見があります。 本当にそうでしょうか? この問題にふれてみたいと思います。
温室効果ガスを削減するためには、クリーンなエネルギー源を選択しなければなりません。ここでは、いくつかのエネルギー源を比較して、 その中で、地熱エネルギーがいかに優れたエネルギー源であるかを御紹介します。
いま、日本では、電力消費者がエネルギー源を選ぶことができません。しかし、近い将来、他の先進諸国のように、消費者が電力源を選ぶことが出来るようになるはずですし、また、そうならなければなりません。クリーンエネルギー社会は、私たち市民がつくらなければならない問題であり、その意味から、皆様方に、地熱への御支援を訴えて、話を終わりたいと思います。