地熱探査の目標として,次のような事項があげられます。
それぞれの目的の相対的な重要性は,様々な要因によって変わってきますが,殆どの要因は資源そのものに密接に繋がったものです。その中には,期待される利用量,利用可能な技術,経済性,そして状況や場所やタイミングといったものも含まれ,それらは全て,探査プログラムに影響します。例えば,地熱徴候があるということが事前に分っていることは,未開発の遠隔地では,よく知られた地域の場合より遥かに重要な意味を持つわけです。また既に自然流出している量より明らかに少ない熱量ですむような小規模な開発を考えている場合には,資源の規模を評価することは,余り重要ではありません。熱エネルギーを地域暖房その他の低温施設で利用する場合には,高温流体はもはや重要な目標ではありません (Lumb, 1981) 。
これらの目標に至るために利用することができる,数多くの手法や技術があります。これらの手法のうちの多くは,他の研究分野で広く試され,現在も使われているものです。とは言え,鉱山や石油・ガス探査で有効だと証明されてきた技術や手法が,そのまま地熱でも最適な方法なわけではありません。逆に,石油探査では余り用いられなかった手法が,天然の熱を探す上では理想的な道具だとわかることもあります (Combs and Muffler, 1973) 。
どのような探査プログラムにおいても,最初に行われるのが地質・水理学的研究であり,その基本目的は,より詳細な調査を行うに値する地域の位置や拡がりを確かめ,そういった地域を開発するのに最も相応しい方法を提案することです。地質・水理学的研究は,それに続くあらゆる段階の地熱研究,まさに探査井や生産井の位置決めに至るまでの全ての段階で,非常に重要な役割を果たします。また,他の探査手法で得られたデータを解釈する上でも,さらには,地熱系の現実的なモデルを構築したり,資源量を査定する上で,重要な基礎データとなります。地質・水理学的研究から得られた情報はまた,貯留層エンジニアや生産エンジニアにとっても重要な情報として,生産段階で用いられます。適切な探査プログラムと効率的な研究調整によって,探査の期間やコストは,大幅に削減することが可能です。
地化学的研究 (同位体地化学も含む) は,その地熱系が蒸気卓越型であるか熱水卓越型であるかを確認し,深部では最低限どの程度の温度が期待されるかを推定し,供給される水の同質性を評価し,深部流体の化学性状を推論し,熱水の供給源を決定する上で,便利な手法です。また,還元を行ったり,プラント管理の段階で起きてくる諸問題 (流体組成の変化,パイプやプラント設備の腐食やスケーリング,環境への影響など) や,そういった問題を避けたり対処する方法についても,貴重な情報をあたえてくれます。地化学調査は,調査地域内の地熱徴候地 (温泉やガス坑) および坑井での水やガスのサンプリング,化学分析あるいは同位体分析で構成されます。地化学調査は,開発プログラムをたてる上で重要なデータを提供してくれますし,他の精巧な手法 (例えば物理探査) に比べればコストも低い方なので,他の高費用の手法に進む前に,できる限り利用しておくべきでしょう。
物理探査法は,地表または地表に近い深度から,深部の地層の物理パラメータを間接的に調べる事を目的としています。こういった物理パラメータには,以下のものが含まれます。
このうちのいくつかの手法,例えば地震探査,重力探査,磁気探査などは,もともと石油探査で採用されていた手法で,深部にある地熱貯留層を形成する地質構造の形状,規模,深度,その他の貴重な情報を与えてくれるものですが,こういった地質構造に,調査の第一目的である流体が実際に含まれているかどうかについては,殆ど,或いは全く情報を与えてくれません。したがって,こういった手法は,探査井の位置を決定する直前の,探査の最終段階で行う内容を詳細に定義するために,用いるべきでしょう。地質構造中に地熱流体が存在しているかどうかについては,電気探査法や電磁探査法によって調べる事ができます。これらの探査法は,他の調査法と比較して,流体の存在や温度に対する感度が高いからです。これら2つの手法は,これまで広く適用され,満足な結果が得られて来ました。マグネトテルリック法 (MT法) は,太陽の磁気あらしによって起こる電磁波を利用した手法ですが,ここ数年で大きく改良され,現在では広範にわたる応用が可能になっています。ただし,この手法には高性能の装置が必要であり,都市部ではバックグラウンドノイズの影響を受けやすいという面があります。MT法の主な利点は,電気探査や他の電磁探査技術に比べて,より深い部分の構造を明らかにする事ができるということです。コントロールドソース・オーディオマグネトテルリック法 (CSAMT法) は,近年開発された方法で,天然の電磁波の代わりに,人工的に誘導された電磁波を利用します。この技術は,従来のMT法に比べて探査深度は浅いのですが,早く,安く,ずっと詳細に調べることができます。
熱技術 (温度測定,地温勾配および地殻熱流量の決定) はしばしば,貯留層上面の温度についての,適切な推定値を提供してくれます。
多少の差こそあれ,物理探査法はどれも高額です。また,どんな状況や条件でも無関係に使えるという物理探査法はありません。ある特定の地質状況については素晴らしい結果が得られた手法でも,他の状況では,全く不満足な結果しか得られないかもしれません。従って,探査コストを削減するためには,どの物理探査法を利用するかについて,物理探査の専門家が地質学者とよく協力しながら,慎重に選ぶことが重要です (Meidav, 1998)。
探査井の掘削は,どのような地熱探査プログラムにおいても最終段階を意味しており,これは地熱貯留層の実際の特性を特定する唯一の方法です (Combs and Muffler, 1973) 。探査井で得られたデータから,地表探査の結果から入念に作られた全ての仮定やモデルを実証したり,貯留層が生産的であるかどうか,つまり意図した目的で用いる上で適切な性状の流体を充分に有しているかどうかを,確かめることができます。そういうわけですから,探査井の位置を決める事は,非常に精巧性を求められる作業なのです。
地熱探査プログラムを書きはじめる前に,現存している全ての地質,物理探査,地化学のデータを集めて,対象地域およびその周辺で過去に行われた水,鉱物,石油資源についての調査結果から利用できるあらゆるデータと一緒に,まとめあげなければなりません。この情報はしばしば,地熱探査プログラムの目標を決定する上で重要な役割を果たし,コストを大幅に下げることにつながります。
探査プログラムは通常,1段階ずつ築かれていきます:踏査,事前 (プレ・フィージビリティ) 調査,可能性 (フィージビリティ) 調査。これら各段階において,あまり有望でない地域を徐々に除外し,最も有望な地域に集中させていきます。プログラムが進むに連れて,調査手法もより精巧で詳細なものへと,次第に変化します。プログラム全体の規模や予算は当然,目標や,期待される資源の重要性,そして予定される利用形態に応じています。調査プログラムは変更可能で,各段階の種々の調査結果によって再考されるべきですし,地質-地熱モデルも同じように,最新の情報に応じて漸次改良されるべきです。こういったプログラムの再考をする度ごとに,各段階で得られた結果に応じて,もはや不要な作業を除外して別のことを導入していくのが理想的でしょう。明らかに,調査の数や規模が縮小されれば,それだけコストが下がる一方,誤りや失敗の危険はその分増すわけです。逆に,違りの危険を下げるためには,全体のコストが上がります。地熱探査プログラムの経済的成功は,この2つの適切なバランスを見つけることに懸かっています。