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地熱エネルギー入門(翻訳)地熱資源の利用

5. 地熱資源の利用

 発電は,最も重要な高温地熱資源 (>150℃) の活用方法です。中低温の地熱資源 (<150℃) は,多くの異なった形で利用されます。温度別に地熱流体の利用方法を示したリンダル線図 (Lindal, 1973) は現在でも有効なものです。図10にバイナリ−発電を追加したリンデル線図を紹介します。20℃以下の流体は利用の機会が少なく,特殊な条件またはヒートポンプでしか利用されません。リンダル線図から,地熱資源の利用に関し次の2つの重要な点が読み取れます (Gudmundsson, 1988) :a) 各温度域での段階的な使用や複合的使用によって,地熱プロジェクトの実現性を高めることができる,b) 地熱資源の温度によって,利用方法が制限されるが,地熱流体利用上の熱サイクル設計が既存のものより改良されれば,地熱資源の適応範囲が広がる可能性があります。

地熱の温度別利用方法
図10 地熱流体の利用方法を示す図 (Lindal, 1973 より)

5.1 発電

 発電は,地熱資源の特性により,主に従来式の蒸気タービンまたはバイナリ−プラントによって行われます。

 従来式の蒸気タービンは最低150℃の流体が必要であり,大気開放 (背圧式) または復水式のいずれも適用可能です。背圧式タービンは簡易で安価です。乾燥蒸気井からの蒸気が直接,または熱水卓越型坑井から気水分離された後の蒸気がタービンに入り,大気へ放出されます。 (図11)

背圧式地熱発電設備
図11 背圧式地熱発電設備概略図 地熱流体は赤色で示す。

 この方式では,同一の蒸気圧力に対して単位電力量当りの蒸気消費量は復水式のほぼ2倍となります。しかし背圧式タービンは,試験プラント,予備プラント,供給蒸気が少ない生産井,または開発段階での試験井から発電する場合には,極めて有効です。また,蒸気内に非常に多くの不凝縮ガスを含んでいる場合 (>12%wt) にも,用いられます。背圧式設備は短期間で製作,据付けされ,注文してから僅か13〜14月足らずで運転に入ることができます。背圧式は主に2.5〜5MWeの小容量設備に用いられます。

 復水式は,多くの補機を必要とし,背圧式に比べて複雑で大きく,製作,据付けも2倍の期間を要します。しかし,復水式の蒸気消費率は,背圧式の半分程度です。復水式は容量が55〜60MWeのものが一般的であり,近年では110MWeの復水式プラントも建設されています。 (図12)

復水式地熱発電設備
図12 復水式地熱発電所の概略図。高温の流体を赤で,冷却水を青で示す

 バイナリー発電技術の進歩により,中低温の地熱流体や熱水卓越型での気水分離器からの排熱水を利用した発電が非常に促進されました。バイナリー発電プラントでは,通常有機媒体 (ノルマルペンタン等) が,二次作動流体として使用されます。これらの媒体は蒸気と比べて沸点が低く,低温で蒸発します。二次流体は一般的なランキンサイクル (ORC) によって利用されます。熱交換器によって,地熱流体から二次流体へ熱が伝わり,二次流体は加熱され蒸発します。生成された蒸気が通常の軸流タービンを駆動させ,冷却・凝縮された後,再び熱交換器に戻ります。 (図13)

バイナリー地熱発電設備
図13 地熱バイナリ発電プラント図 地熱流体は赤色,二次媒体は緑色,冷却水は青色で示す。

 バイナリ−発電システムでは,適切な二次媒体を選ぶことによって85?170℃の地熱流体を利用するように設計することができます。温度の上限は有機二次媒体の熱安定によって制限され,下限は技術的経済的な要因によって制限されます。この温度以下では,熱交換器の大きさによっては,プロジェクトの経済性が損なわれる恐れがあります。中低温の地熱流体又は排出流体を利用する場合に加えて,地熱媒体をフラッシュさせての利用を避けたい場合 (坑井でのスケール付着を避ける等) にも,バイナリ−発電システムが有効です。この場合には,ダウンホールポンプにより,流体を加圧された状態に維持し,バイナリ−ユニットにより流体からエネルギーを取り出すことができます。

バイナリ−発電プラントは,通常数百kWから数MWの小型モジュール方式で建設されます。これらのユニットを複数連結させることによって,数十MWの発電プラントが構成されます。この場合のコストは,いくつかの要因に左右されますが,特に生産される地熱流体の温度に依存します。地熱流体の温度が,タービンや熱交換器,冷却設備の大きさに影響を与えます。プラント全体の大きさは,標準モジュールユニットを連結することによって大容量化が可能ですので,コストにはさほど影響しません。

 バイナリ−発電は,コスト的に非常に優れており,170℃未満の熱水卓越型の地熱流体から取り出したエネルギーを利用して発電する技術です。

 1990年代には,水とアンモニアの混合物を作動流体として利用する新しいバイナリ−発電システム,カリーナサイクルが開発されました。作動流体は,過熱状態で高圧タービンで膨張し,再熱された後に低圧タービンに入ります。低圧タービンで二度目の膨張をした飽和蒸気は,再生ボイラーを通った後,水冷式凝縮器で凝縮されます。カリーナサイクルは,既存のORCバイナリ−発電システムよりも効果的ですが,より複雑な設計となります。

 従来型,新型を問わず,小型発電プラントは,新坑井の掘削によるリスクを軽減させることはできませんが,重要なことは,隔絶された地域のエネルギー需要に応えることができるという点です。ローカルエネルギー資源を活用することができれば,多くの地域社会の生活水準を飛躍的に改善することができます。電気によって,灌漑用水を汲み上げたり,果物,野菜を冷凍して長期保存するといった,平凡ではあっても大変重要な多くのことが可能になるのです。

 小型発電プラントの利点は,一般的な燃料の供給が困難な地域や,近くに高圧送電線があっても接続の経費が高過ぎるような地域において,明確に現れます。高圧送電線から電気を取り出すのに必要な降圧変圧器は675,000ドル (約7千万円) 以上であり,木製の電柱を使い11kVで配電するという最も単純な配電形式を用いても,1km当り20,000ドル (1994年,約2百万円) はかかるため,小さな隔絶地に電力供給することは極めて困難です。それに比べ,バイナリ−発電ユニットの建設価格は1500-2500ドル/kW (約15万円〜25万円,掘削費は含まない) です。系統から隔絶された地域での一人当りの電力需要は,途上地域で0.2kW,先進地域では1.0kW以上ですから,100kWeの発電プラントで約100?500人の需要を賄うことができます。1000kWeの発電プラントでは1000人から5000人の需要を賄うことが可能です。 (Entinghほか,1994)

5.2 地熱の直接利用

 地熱の直接利用は,地熱エネルギー利用の中でも最も歴史が古く,多方面で親しまれています (表2) 。浴用,室内暖房,地域暖房,農業利用,養殖,工業利用などは最もよく知られた直接利用ですが,今ではヒートポンプが一番事例の多い利用方法になりました (2000年には,全エネルギー利用の12.5%を占めました) 。このほかにも,きわめて小規模ながら,特殊な熱利用が多くみられます。

 室内暖房と地域暖房は,アイスランドで広く普及しています。同国の地熱による地域暖房は1999年末までにおよそ1200MWtにまで増えました (図14) 。東欧をはじめ,米国,中国,日本,フランスなどでも広く利用されています。

レイキャビックの地域暖房システム図
図14 レイキャビックの地域暖房システムの概念図 (Gudmundsson, 1988より)

 地熱による地域暖房には多額の投資が必要です。その主なものは,生産井・還元井,坑内ポンプ,送水ポンプ,パイプライン,配管ネットワーク,監視制御機器,過負荷制御室,貯湯タンクなどの初期投資です。しかし,運転コストは従来のものより安価で,ポンプ動力,システム維持費,制御監視経費などがその主なものです。初期投資を決める重要な要素は,地域の面積に対してどの程度の熱需要があるかです。給湯配管システムは値段が高いだけに,狭い区域に大きな熱需要があれば,地域暖房計画の経済効率は良くなります。気候条件さえ良ければ,冷暖房を行うことで,幾らか経済的なメリットが得られることもあります。冷暖房であれば,暖房単体の時より負荷が大きくなり,エネルギー単価が良くなるという訳です (Gudmundsson, 1988) 。

 冷房は,吸収溶液に地熱を応用したものです。この技術は周知のもので,入手は簡単です。吸収式冷凍サイクルはエネルギー源として電気ではなく熱を使います。冷却過程は二つの流体を用いて行われます。一つは冷媒でその循環の過程で蒸発・凝縮を繰り返します。もう一つは吸収溶液です。0℃以上の場合 (主に部屋や工場の空調) ,循環サイクルには吸収溶液として臭化リチウムを用い,冷媒には水を用います。0℃以下の場合,アンモニアと水の組み合わせで行います。アンモニアが冷媒で,水が吸収溶液です。地熱流体が再生器へのボイラー蒸気の代わりをします。そのため地熱流体の温度が105℃以下になると,効率が落ちます。

地中熱ヒートポンプ
図15 典型的なヒートポンプ (Sanner ほか, 2003より)

 地熱による空調 (暖房,冷房) は,ヒートポンプの普及により1980年代に急速に成長しました。色々なヒートポンプのシステムができたため,大地,浅い地下水層,池などの低温熱源の熱容量を引き出して経済的に活用することができます (Sanner, 2001) (図15の例参照) 。

 ヒートポンプというのは低温から高温へと自然の熱の流れと反対に熱を動かす機械です。ですから冷蔵庫と何の変わりもありません (Rafferty, 1977) 。冷却装置 (室内のクーラー,冷蔵庫,冷凍庫など) はどのタイプでも,ある空間から熱を運び去り,その熱をより高温で排出します。ヒートポンプと冷蔵庫の唯一の違いは,求められている効果です。つまり冷蔵庫の場合は冷やすことであり,ヒートポンプの場合は暖めるということです。多くのヒートポンプに見られる第二の特徴は,反対方向の運転が可能で,暖房も冷房もできるということです。ヒートポンプも当然ながら運転するのにエネルギーが必要です。しかし,気候条件が良く,設計がよければ,抽出されるエネルギーは投入したエネルギーを大きく上回ることができます (図16参照) 。

 垂直Uチューブ型ヒートポンプシステム (Ground-Coupled Heap Pump) や地下水熱源型ヒートポンプシステム (Groundwater Heap Pump) は,少なくとも30ヶ各国以上の国々で使われており,その総熱容量は9,500MWt (2003年) にもなります。その多くは米国であり,500,000機,総熱容量330MWtです。スウェーデンは200,000機,2,000MWt,ドイツは40,000機,560MWt,カナダは36,000機,435MWt,スイスは25,000機,440MWt,オーストリアは23,000機,275MWtです (Lund ほか, 2003) 。これらのシステムでは,地下水層や地層の温度は5℃から30℃です。

ヒートポンプによる暖房運転
図16 暖房運転中のヒートポンプの概念図
(米国オレゴン州クラマスフォールズ,ジオヒートセンター)
農業利用

 地熱流体の農業利用には,路地栽培と温室栽培とがあります。地熱水は,路地栽培では灌漑用または土の温度上昇に使われています。温水を使って畑を灌漑する場合,一つ大きな難点があります。作物に被害を出さずに,有益な土の温度上昇を得ようとすれば,低温の温水が大量に必要となりますが,それは土地を冠水させかねないということです。この解決策として,地中埋設配管による地温調整と灌漑を組み合わせる方法があります。灌漑はせず地中埋設配管で土だけを暖める方法では,パイプの回りに付いた水滴が断熱効果を発揮するため,土の熱伝導度が下がってしまいます。従って最も良い方法は,パイプで土を暖めながら,灌漑を行う方法でしょう。潅漑に用いられる地熱流体の化学成分が植物に悪い影響を与えないよう,慎重に監視する必要があります。路地栽培での温度制御の利点は, (a) 環境温度が低いことから生じる冷害の予防, (b) 生育期間の延長,生育の促進,収穫量の増加, (c) 土の殺菌効果,があげられます。 (Barbier and Fanelli, 1977)

 地熱エネルギーの最も一般的な農業利用は,やはり温室利用です。多くの国で大規模に実施されています。野菜や花卉の季節外の栽培,または,栽培地の気候とは異なる気候条件での栽培ができるのは,これまでに実験を重ねた技術のお陰です。植物の成長に最適な温度 (図17) ,光量,二酸化炭素濃度,土と空気の湿度,風量などから,最適生育条件を見つけることが可能になります。

農作物の生育曲線
図17 作物の生育曲線 (Beall and Samuels, 1971より)

 温室の壁には,ガラス,ファイバーガラス,硬化プラスティック板,ビニールシートなどが使われています。ガラスはプラスティックより透過性が良く,光がよく入ります。しかし,断熱効果は悪く,衝撃にも弱く,重くてプラスティック板よりは高価です。最も単純な温室は,一枚のビニールシートで覆ったものですが,最近,中間に空気を入れた二重のビニールシートもみられます。これを用いると,側面からの熱損失が30-40%少なく,温室効果を高めます。温室の暖房では,熱交換機で強制的に空気を循環させたり,熱水を地中や地面に設置したパイプやダクトで循環させたり,側面またはベンチの下に排気を置いたり,あるいはこれらを組み合わせて温室効果を高めています。 (図18)

 温室暖房に地熱を利用することによって,かなりのコスト削減ができます。野菜,花,鉢植え植物,樹木の苗栽培などでは,時に生産価格の35%にもなります。

地熱利用温室概念図
図18 地熱利用温室 (Von Zabeltitz, 1986より)
自然の空気循環: (a) パイプ暖房 (自然対流) , (b) ベンチ暖房, (c) 低位置パイプ暖房, (d) 土暖房
強制空気循環 (強制対流) : (e) 側方暖房, (f) 扇風機, (g) 上部配管, (h) 下部配管
畜産

 野菜や植物と同様に,家畜飼育や魚類養殖も,環境温度条件によって量,質ともに恩恵を受けることになります (図19参照) 。多くの場合,地熱熱水は農場と温室の組み合わせで有効に利用されています。動物飼育施設の暖房に要するエネルギーは,同面積の温室に必要とされるエネルギーの約半分であるため,熱エネルギーのカスケード利用 (段階利用) ができます。温度制御された環境での飼育は,動物の健康管理にも良く,高温の熱水は,動物小屋や排泄物の掃除,消毒,乾燥に使うこともできます。 (Barbier and Fanelli, 1977)

家畜・魚介の成育温度
図19 食用動物の成育・生産と環境温度との関係 (Beall and Samuels, 1971より)
魚介類養殖

 温度管理された環境で養殖魚類を育てることは,今日,需要の増加に伴って世界的に重要度を増してきています。陸上の生き物より水中の生き物は温度管理が重要であり,図19に見られるように,陸の生き物と水中の生き物では成長曲線に違いがみられます。人工的に最適温度を維持することで外来種を養殖したり,生産を増やしたり,時には倍増させることも可能です (Barbier and Fanelli, 1977) 。養殖される典型的なものは,鯉,鯰,バス,ティラピア,ボラ,鰻,鮭,チョウザメ,海老,ロブスター,ザリガニ,蟹,牡蠣,蛤,帆立貝,ムール貝,鮑です。

 ワニも観光や皮革を目的にして養殖が行われています。これは儲かる商売かも知れません。米国の例では,ワニを30℃の環境で飼育すれば3年で2mの大きさまで成長しますが,自然界では同じ期間で1.2mにしか成長しないことがわかりました。これら爬虫類の飼育はコロラド州やアイダホ州の農場でここ数年行われており,アイスランドでも計画があると言われています。

水槽飼育

 水槽飼育の環境温度は普通20−30℃の範囲です。設備の規模は,地熱流体の温度,水槽の飼育温度や熱損失により変わります。

 螺旋藻 (Spirulina) の飼育も養殖の一種とされています。これは単細胞で,螺旋形をした青緑色の微小藻であり,スーパーフードとも呼ばれることもあります。というのは,栄養素が多く含まれているからです。これが普及すれば,世界の貧しい国々の飢餓問題を解決するとされていますが,まだ現在は栄養価の高いサプリメントとして市場に出ているだけです。螺旋藻は現在,熱帯・亜熱帯の国々の湖や人工的な池で,短時間の生育に理想的な条件 (高温で二酸化炭素が多いアルカリ環境) での養殖が始まっています。既に温帯の国々では,通年に渡って螺旋藻の生育に必要とする熱を地熱エネルギーによって供給することに成功していいます。

その他利用

 地熱流体は蒸気であったり熱水であったりと,その温度幅が大きいため,工業にも利用されています (図10 Lindalダイアグラム参照) 。その利用形態は様々で,工業用製品加熱 (Industrial process heating) ,蒸発,乾燥,蒸留,殺菌,洗浄,除氷,塩抽出などがあります。工業用製品加熱 (process heating) は19カ国で利用されています (Lund and Freeston, 2001) 。装置は概して大型であり,エネルギーの消費は大きいのが特徴です。例としては,コンクリートの養生,水や炭酸水の瓶詰,製紙,自動車部品製造,石油の回収,牛乳の殺菌,皮革産業,化学的利用,二酸化炭素抽出,洗浄,珪藻土の乾燥,パルプ・紙の処理,ホウ酸・ホウ素生産などです。また,低温の地熱流体を滑走路の除雪,除氷や霧防止に利用しようとする計画もあります。日本ではある中小企業が,地熱熱水中の硫化水素の漂白能力を使って革新的な繊維をつくり,婦人用のきれいな織物をつくることに成功しています。同時に,軽量の「地熱材木」を試験的に製造し,ある種の建築に適することを実証しています。これは,材木を熱水中で処理する段階で,材木の水分に含まれる多糖類が加水分解し,材質をより多孔質で軽量に変化させるものです。

5.3 経済性の考察

 プラントや運転のコストであれ,地熱エネルギーによる産物の価格であれ,コスト試算する際に考えなければならない要素は,他のエネルギー形態に比べて,数も多く複雑です。それでも,プロジェクトを立ち上げる前には,それらすべての要素を念入りに評価しなければなりません。ここで触れる内容は,一般的な特性のほんの数例に過ぎませんが,現地状況の情報や,利用できる地熱流体の価値と共に,投資家が決断する際の助けにはなるでしょう。

 地熱資源を利用したプラント (地熱動力を利用した施設) は,生産井,地熱流体輸送パイプライン,利用プラントによって構成され,それにしばしば還元井も加わります。これらすべての要素の相互関係は,投資コストに強く影響しますので,注意深く分析しなければなりません。発電について例を挙げれば,背圧式プラントは最も簡易な手段であり,同じ容量の復水式と比べ安価ですが,復水式の約2倍の蒸気量を必要とし,2倍の本数の生産井が必要となります。坑井は非常に高価ですから,結果的に,復水式発電プラントのほうが背圧式より安価となります。実際,復水式プラントは通常,経済性以外の理由で採用されます。

 断熱されたパイプラインを用いれば,地熱流体はかなり長距離の輸送することが可能で,理想的な状態では,60kmもの長いパイプラインも可能です。とは言え,パイプラインにはポンプ,バルブ等の付属品や保守点検が必要ですし,パイプラインは非常に高価ですから,地熱プラントの初期建設コストと運転コストに重くのしかかってきます。従って,熱源と利用施設との距離は,できる限り短くすべきです。

 通常,地熱プラントの初期コストは,同容量の一般火力プラントに比べて高く,遥かに高いこともしばしばです。逆に,ランニングコストは,一般火力プラントより遥かに安く,このコストは,地熱に関わる部分 (パイプライン,弁,ポンプや熱交換器等) の保守コストに相当しています。高い初期コストは,発電コストの節減分により回収が可能です。従って,プラントを設計する際は,初期投資額を償却するのに充分な耐久性があり,そして可能であれば,更に長く利用できるように設計すべきです。

 高い稼働率を可能にする複合システム (例えば冷暖房一体型) や,上流部からの排水を段階的に再利用するカスケードシステム (例えば,発電機→温室→酪農舎) 等を採用することにより,かなりの節約を達成することができます。 (図20)

地熱エネルギーのカスケード利用例
図20 地熱エネルギーのカスケード利用 (米国オレゴン州クラマスフォールズ,ジオヒートセンター)

 プラントの停止時間を短縮し,メンテナンスコストを削減するためには,プラントに適用する技術レベルは地元のエンジニアが取り扱えるレベル,または専門家をすぐに要請できるレベルに留めるべきです。高度な専門技術をもつ技術者や製造者を必要とするのは,大規模な保守点検や分解の時だけにすべきです。

 最後に,地熱プラントで消費材を生産する場合は,その生産を引き受ける前に,注意深く市場調査を行わなければなりません。最終的な生産物を生産地から消費地まで経済的に輸送するのに必要なインフラは,すでに整備されているか,または初期プロジェクトに含められるべきです。

 これまで記した考察は,いかなる地熱エネルギーの利用形態にも現地の状態にも適用できる反面,定性的にしか過ぎません。投資とコストに関する定量的な考え方に関しては,UNDP, UN-DESAとWorld Energy Councilが作成,2000年出版のWorld Energy Assessment Reportを推奨します。地熱エネルギーと他の新エネルギーとを比較したWEAのデータを,表4と表5に示します。 (Fridleifsson, 2001)

表4 再生可能エネルギーにより発電した活用した場合のエネルギーコストと投資コスト
現行の発電単価
米セント/kWh
将来の発電単価
米セント/kWh
ターンキー投資費用
米ドル/kW
バイオマス 5 - 15 4 - 10 900 - 3000
地熱 5 - 15 4 - 10 900 - 3000
風力 2 - 10 1 - 8 800 - 3000
太陽光発電 5 - 13 3 - 10 1100 - 1700
太陽光発電 25 - 125 5 - 25 5000 - 10,000
潮力発電 12 - 18 4 - 10 3000 - 4000
表5 再生可能エネルギーを直接熱利用したときの各エネルギーと費用 (Fridleifsson, 2001)
発電原価 将来の発電原価 ターンキー投資費用
バイオマス
(エタノールを含む)
1 - 5 1 - 5 250 - 750
地熱 0.5 - 5 0.5 - 5 200 - 2000
風力 5 - 13 3 - 10 1100 - 1700
低温太陽熱 3 - 20 2 - 10 500 - 1700